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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)5733号 判決 1999年5月25日

原告

本間節子

ほか二名

被告

玉屋典久

ほか一名

主文

一  被告らは、原告本間節子に対し、各自金一三九九万一一七三円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告本間優子に対し、各自金六六四万一四一一円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告本間智子に対し、各自金六六四万一四一一円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告本間節子に対し、各自金四七三一万五六三八円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告本間優子に対し、各自金二三四五万九三一九円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告本間智子に対し、各自金二三四五万九三一九円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告玉屋典久(以下「被告玉屋」という。)運転・被告有限会社荒井丸友商店(以下「被告会社」という。)所有の普通貨物自動車と本間俊一(以下「俊一」という。)運転の足踏式自転車とが衝突して俊一が死亡した事故につき、俊一の妻子である原告らが、被告玉屋に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成八年八月二日午前〇時一三分頃

場所 大阪府豊中市利倉三丁目一番一号先交差点(以下「本件交差点」という。)

事故車両一 普通貨物自動車(大阪四七み三三二八)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告玉屋

右所有者 被告会社

事故車両二 足踏式自転車(以下「俊一車両」という。)

右運転者 俊一

態様 南から北に進行中の被告車両と東から西に向けて進行中の俊一車両とが衝突した。

2  被告らの責任原因

(一) 被告会社

被告会社は、被告車両の所有者であり、その運行供用者である。

(二) 被告玉屋

被告玉屋は、本件交差点が道路標識により最高速度が時速四〇キロメートルと指定され、当時対面信号が黄色点滅で、左右の見通しも困難であったのであるから、右最高速度を遵守するはもとより安全な速度に減速して本件交差点内の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠って漫然時速六〇キロメートルで進行した過失がある。

3  俊一の死亡及び相続

(一) 俊一は、本件事故により、平成八年八月三日午前九時一〇分頃、死亡した(弁論の全趣旨)。

(二) 俊一の死亡当時、原告本間節子(以下「原告節子」という。)はその妻、原告本間優子(以下「原告優子」という。)及び同本間智子(以下「原告智子」という。)はその子であった(弁論の全趣旨)。

4  損害の填補

原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から三〇〇〇万円の支払を受けたので、各相続分(原告節子は二分の一、同優子及び同智子は各四分の一)に応じて填補を受けた。

二  争点

1  過失相殺

(被告らの主張)

本件事故は夜間に起きたものである。俊一の対面信号は赤点滅であった。俊一車両は無灯火であった。俊一のアルコール含有量は血中一ミリリットル中一・二四八ミリグラムであった。したがって、被告らは、四五パーセントの過失相殺を主張する。

(原告らの主張)

俊一車両は、横断歩道から二・九メートル内側の地点を横断していたのであり、横断歩道上の事故と同視することができるというべきである。しかも、本件衝突地点は俊一車両がほぼ道路の横断を完了したところである。以上からすれば、俊一に過失相殺を認めることはできない。

被告ら主張の過失相殺根拠事実の評価は争う。

2  損害額(一部については争いがない。)

(原告らの主張)

(一) 逸失利益 合計八三七一万七二七六円

(1) 得べかりし報酬額 七八七七万三五三四円

(2) 退職金差額 四九四万三七四二円

(二) 俊一の死亡慰謝料 二六〇〇万円

(三) 原告ら固有の慰謝料

(1) 原告節子固有の慰謝料 二〇〇万円

(2) 原告優子固有の慰謝料 一〇〇万円

(3) 原告智子固有の慰謝料 一〇〇万円

(四) 葬儀費用(原告節子負担) 一一九万七〇〇〇円

(五) 弁護士費用

(1) 原告節子 四二六万円

(2) 原告優子 二五三万円

(3) 原告智子 二五三万円

(被告らの主張)

葬儀費用は認め、その余は争う。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲二2、13、15、21、23、26ないし32)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府豊中市利倉三丁目一番一号先交差点であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場の交差点(以下「本件交差点」という。)は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とがほぼ直角に交わる交差点であり、相互の見通しは困難である。本件事故当時、南北道路の対面信号は黄色点滅、東西道路の対面信号は赤色点滅であった。東西道路の最高速度は道路標識により四〇キロメートルに規制されていた。

被告玉屋は、平成八年八月二日午前〇時一三分頃、被告車両を運転し、南北道路を南から北に向かって時速約六〇キロメートルで走行中、別紙図面<1>地点で対面信号の黄色点滅を確認し、同図面<2>地点で対向車両を認め、その対向車両と同図面<3>地点ですれ違うと同時に目線を進路前方に戻したところ、前方に同図面<ア>地点を走行中の俊一車両を発見し、ハンドルを左に切ると同時に急制動をかけたが、間に合わず、同図面<×>地点で被告車両の右前角と俊一車両の左側面前部とが衝突した。衝突後、被告車両は同図面<5>地点に停車し、俊一車両は同図面<ウ>地点に、俊一は同図面<エ>地点にそれぞれ転倒した。俊一車両は無灯火であり、俊一のアルコール含有量は血中一ミリリットル中一・二四八ミリグラムであった。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告玉屋が本件交差点に進入するに際し、安全な速度に減速するとともに交差道路から進入してくる車両の安全を確認して進行すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったまま漫然と進行した過失のために起きたものであると認められる。しかしながら、その反面において、俊一としても、対面信号が赤点滅状態である以上、本件交差点に進入するに際しては十分な注意を払うべきであったのであり、その他右認定にかかる一切の事情を斟酌し、四割五分の過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2について(損害額)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 逸失利益

(1) 得べかりし報酬額 七二四八万二九九五円

証拠(甲三、六)及び弁論の全趣旨によれば、<1>俊一(本件事故当時五一歳、昭和二〇年三月一日生)は、本件事故当時、金森合成樹脂株式会社の従業員兼務の取締役として年額八九七万六〇〇〇円の報酬を得ていたこと、<2>俊一は、本件事故当時、原告節子、同優子(昭和五二年九月一二日生)及び同智子(昭和五五年三月二九日生)と暮らしていたことが認められるから、右年収を基礎にし、生活費控除率を三割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、稼働期間(本件事故後一六年間)内の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 8,976,000×(1-0.3)×11.536=72,482,995(一円未満切捨て)

原告らは、俊一が勤続し、昇給することを前提とする主張をするが、勤続の有無、昇級の有無等は勤務会社の収益状況、その他の社会状況等不確定要素によるところが大きく、右主張を認めるに足りる証拠はない。

(2) 退職金差額 認められない。

原告らは、俊一が勤続することを前提とし、退職金の逸失利益を主張するが、勤続の有無、退職金の支給可能性は不確定要素によるところが大きく、右主張を認めるに足りる証拠はない。

(二) 俊一の死亡慰謝料 二六〇〇万円

本件事故の態様、俊一の年齢、家族状況その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、俊一の死亡慰謝料は二六〇〇万円であると認められる。

(三) 原告ら固有の慰謝料 認められない。

俊一の死亡慰謝料として二六〇〇万円を認めていることに照らし、原告ら固有の慰謝料を認めるのは相当ではない。

(四) 葬儀費用(原告節子負担) 一一九万七〇〇〇円

葬儀費用として原告節子が標記金額を要したことは、当事者間に争いがない。

2  損害額(過失相殺後)

右(一)ないし(三)に掲げた俊一の損害額の合計は九八四八万二九九五円であるところ、前記の次第でその四割五分を控除すると、五四一六万五六四七円(一円未満切捨て)となる。原告節子は、これを二分の一の割合(二七〇八万二八二三円、一円未満切捨て)で、同優子及び同智子は各四分の一の割合(各一三五四万一四一一円、一円未満切捨て)で承継したことになる。

右1(四)のとおり原告節子の支出した葬儀費用は一一九万七〇〇〇円であるところ、前記の次第でその四割五分を控除すると、六五万八三五〇円となる。

したがって、過失相殺後の原告らの損害額は、原告節子が二七七四万一一七三円、同優子及び同智子が各一三五四万一四一一円となる。

3  損害額(損害の填補分を控除後)

原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から三〇〇〇万円の支払を受けており、各相続分(原告節子は二分の一、同優子及び同智子は各四分の一)に応じて填補を受けているから、これらを右2の過失相殺後の損害額から控除すると、原告節子が一二七四万一一七三円、同優子及び同智子が各六〇四万一四一一円となる。

4  弁護士費用

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき弁護士費用は、原告節子につき一二五万円、同優子及び同智子につき各六〇万円をもって相当と認める。

三  結論

以上の次第で、原告節子の被告らに対する請求は、連帯して一三九九万一一七三円及びこれに対する本件事故日である平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、同優子の被告らに対する請求は、連帯して六六四万一四一一円及びこれに対する本件事故日である平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、同智子の被告らに対する請求は、連帯して六六四万一四一一円及びこれに対する本件事故日である平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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